【レトロゲームレビュー】『侍』の思い出

今回レビューの槍玉にあがるのは、アクワイアとスパイクのタッグによる時代活劇ゲーム「侍」。

 

「天誅」にぞっこん惚れ込んで以来、「アクワイア」の名がつくものにはつぶさに反応してきた。
そんな中PS2でリリースされたこの「侍」が、僕の食指を動かさぬはずはない。
武士道にのっとり、定価で買ったことを今でも誇りに思っている。

操作性は決して良くなく、コントローラのスティックを限界以上に倒しても主人公の移動スピードは現代の幼児のそれに遠く及ばない。
しかしそんなことは問題ではないのだ。このゲーム、評価すべきところは他に山ほどある。

まずストーリーだ。劇中には大きく分けて「赤玉党」「黒生家」、そして「町民」の3つの勢力がある。
浪人である主人公がとる行動や選択によって、このうちのどれかに肩入れすることができるのだ。
もちろん、いずれにも属さず物語を進めることもできるし、逆に全ての勢力に入れ込むこともできる。

3勢力の中で自分がどのような立ち位置にいるかで、展開は変わってくる。
無駄にマルチストーリー&マルチエンディングなので、そのぶん長く楽しめる。
ならず者として生きるか、それとも人のために自らの力を使うか。モラルが問われるところだ。

この六骨峠(ろっこつとうげ)で展開される物語の役者たちである登場人物にも注目してほしい。
主要人物からザコに至るまで、「これでもか」というほどクセのあるキャラクターが勢揃いしている。

1人くらいは生理的に受け付けない人物が見つかるだろう。
そして、何度もプレイしているうちに通行人を見かける度に条件反射的に跳び蹴りを浴びせるようになるのだ。

 

その他、対戦モードに加えプレイヤーの行動内容によって評価される「侍度」システムや、侍度に応じて獲得できる「侍ポイント」、刀の強化やコレクションなどさまざまなやり込み要素も充実している。
特に収集癖のある人は刀の強化とコレクション(所持数の限界によりコンプリート不可なのは仕様)に熱をあげることだろう。
ちなみに、侍ポイントを貯めることでいくつかの隠し要素が解禁されるが、あまり貯めすぎてもいいことは無いので忠告だけはしておく。

細かな事柄については以下「追憶」で触れることにして、ひとまずこのあたりまでで「侍」に興味を持ってくれた方がもしいたら幸いだ。
また、現在では若干の変更・改善を加えた「侍~完全版~」としてプレイすることができる。
つまり僕がプレイしていた「侍」は、いわば「不完全版」ということだ。

 

追憶

はじめてのさむらい

物語は唐突に始まる。
舞台となる「六骨峠」にふらりと現れた主人公。
木々が青々と茂る山道を抜け、目の前にはさらさらと美しい川が流れている。
僕はこのとき既に、飢えた浪人となって六骨峠に放り出されていたのだ。

初イベントで登場する坪内八郎(通称・坪八)のトリッキーな風貌と剣筋は正直インパクトあったなあ、と当時を懐かしむ。
初見さんはこのイベントで、坪八(ほか3名)を相手にチャンバラの基礎をつかむ事になるのだ。

ただ、ストーリーを何周かしているうちにこの坪内絡みイベントが非常にめんどくさくなるのも事実。
もっともその頃には刀も充分に鍛錬されているはずなので、食らわせる技によっては戦闘開始2秒程度で「おっ、おい…」と詫びをいれさせることも可能だ。

個性豊かな登場人物たち

坪八の印象も強烈だが、六骨峠にはまだまだ個性的なキャラクターたちが存在している。

アフロのカポエラ剣士ドナルド・ドナテロウズ(通称・ドナドナ)や、黒生家の参謀的存在である知床総一郎、実はアレでアレな日向隼人、チャイナ服の英国人女剣士のチェルシーなどなど、六骨峠を盛り上げる面々は枚挙に暇ないが、ここでは刀鍛冶を営んでいる「堂島軍二」を紹介しよう。

本作のやり込み要素のひとつである刀の収集と鍛錬には欠かせない存在だが、かつて「鬼軍二」と呼ばれ恐れられた彼の逆鱗にひとたび触れてしまうと、それは即ち「死」を意味する。

料金が後払いであるのをいいことに逃走を謀ろうものなら「おあぁ」とばかりに地の果てまで彼に追われることになるのだ。
刀で斬りつけたり、跳び蹴りを浴びせたりしても当然「おあぁ」だ。
さすが「鬼軍二」、そこらのチンピラとは比べ物にならないほど強いので注意が必要だ。
金は無いが腕に自信のある貧乏浪人にとっては無料で刀の強化ができるのでおすすめだが、彼を殺害してしまうと刀を預けられなくなる(刀を持ち越すには堂島に預けるか、ストーリーをクリアする必要がある)のが難点。

かく言う私motoyamaも、少なく見積もっても100人近い堂島を葬ってきたが、初期に一度だけ、操作ミスが原因で彼を怒らせてしまい、丹精こめて育てた愛刀とともにあの世に送られたことがある。
操作ミスだろうが何だろうが、彼にとって料金支払い前に店の外に出ることは「悪」なのであり、「悪」には「即」、等しく「死」が与えられるのだ。

愛刀「残月」

「侍」にはかなりの種類の刀(刀でないものもある)が登場する。
恐らく誰しもが、愛刀と呼べる一振りに出会うことだろう。

僕はと言えば、日向隼人の持つ「残月」という忍者刀に心奪われて以来、それだけを鍛え続けた。
この残月、忍者刀であることもあって素早く繰り出せる技が多いのだ。特に「狂い歌舞伎」という技は見た目が派手なだけでなく、手数の多さとスピードも秀逸。攻撃力を鍛えれば相手を瞬殺することも可能だ。

また、「狂い歌舞伎」は突進力も備えた技であるので崖上などで使用すればものすごい速度で空中を疾走できる。
特に役に立つ場面はないが絵的に笑えるので機会があれば試してみるのもいいだろう。

 

残月片手にストーリーを何周もし、鍛えては堂島を葬り、通行人を見ては歌舞伎を演じる日々が続いた。
気付けば残月の能力補正値はMAXになり、自動見切りは100%になっていた。
もはやこの残月の破壊力に耐えられるのは、茶屋に佇む栗吉老人くらいだ。
戯れに対戦モードでこの残月を使用し、相手を怒らせてしまったのも今となってはいい思い出となっている。

侍ポイント獲得に走る日々

主人公がストーリー中で取った行動によって、ゲーム終了時(クリア後、中断後、または死亡時)に侍度と呼ばれるランク付けが行われ、侍ポイントが付与される。
一般的に「良いこと」をすればランクは上がり、逆に「悪いこと」ばかりすると評価は低くなるが、たとえゲーム開始直後に死亡してしまっても「馬の骨」という不名誉な称号とともに5ポイント(だか10ポイント)が与えられる。

隠し要素を解放すべく、当初は(不本意ながら)善行ばかりを繰り返していたが、いちいちストーリーをクリアしていては非常に面倒くさい。そこで我々motoyamaとsouriは、前述の「馬の骨」を狙うことを発案した。
時間をかけてそこそこのポイントをもらうより、何もせずさっさと死んで得られる5ポイントを蓄積していくほうが効率的だと判断したのだ。
「いかに早く、効率的に死ぬか」をキーワードに我々は試行を繰り返し、「最初の坪八イベントで降伏し、簀巻きにされて線路に放置→轢かれて馬の骨」が最善であるとの結論に達した。
われわれはこれを「馬骨作戦」と名づけ、ポイント荒稼ぎを実行に移した。

それからは早かった。
主人公の屍が積み上げられるたび、次々に解放されていく隠し要素。
そして2000ポイントが貯まったとき、「無限の住人」でおなじみの「万次」が、プレイヤーキャラに追加されたのだった。

無限の住人といえば、作者である沙村広明氏はかつてアクワイアの忍者ゲーム「天誅 忍凱旋」のパッケージのデザインを手がけたこともある。
自他共に認めるコアな天誅ファンである私motoyamaにとって、このことがある憶測を呼んだ。

(5000ポイントくらい貯めれば、もしや「力丸」(アクワイア開発「天誅」の主人公)が使えるのでは……?)

もちろん確証はない。
しかし、可能性が全くゼロだとは言えない。
主人公には悪いが、もうしばらく馬の骨と化してもらうことにした。

 

ふたたび、単調な作業が始まった。
「やくざ者に絡まれるも即降伏、無抵抗を貫いて轢死」というある種ガンディー的ともいえる手法により、無機質に、無造作に蓄積されていく侍ポイント。

自分の心から主人公に対する憐れみの心が無くなりかけたある日、ついに転機が訪れた。
3000ポイントという節目に到達したのだ。

そして何やら不穏な空気。メッセージが表示される気配が。
「3000ポイントで力丸登場とは案外早かったな」などと考えていた次の瞬間、横で見守っていたsouriともども度肝を抜かれていたのである。
以下がその時表示されたメッセージだ。

「いっぱいあそんでくれてありがとう。
もうおまけはでないけど、スタッフ一同お礼もうしあげます」

 


 

 

 

 

 

 

その後「侍」は、数百回にのぼる「馬の骨」の獲得履歴を収めたメモリーカードを残してどこかへいってしまった。
それから20年近くが経とうとしている。以来、僕は「侍」をプレイしていない。